[本]のメルマガ」誌より部分転載

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■「現代思想の最前線」/ 五月(ごがつ)
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第29回 ソシュールの幻の書、カッチャーリの来日、読者を前に語るネグリ

まずは三省堂書店神田本店四階人文書で定期的に仕入れ始めた洋書の売上報告から。先月(2002年2月)フランスで発売されたドゥルーズの論文集"L'Ile deserte et autres textes: Textes et entretiens 1953-1974"は初回の平積み分が約一週間で売り切れ、さいきんようやく追加が入荷したと思いきや、この平積み分も売り切ってしまった。びっくりである。いったいどれくらいまで売れるのか、担当者も私もおっかなびっくりだ。次に平積みしたい商品がちょうど入荷したので、次からは棚差しになるが、もっと売れるのかもしれない。しかし、新規で平積みにしたヌスバウム"Ethics and Political Philosophy: Lecture and Colloquium in Munster 2000"がなんと即日完売してしまい、担当者は、POPを書く時間すらなかったと驚いていた。私も正直、驚いている。1月25日号でこの本のについて短く言及したが、ドイツで発行された本書は、国内では入手しづらい品目だった。追加発注を出したので、一ヵ月後くらいには再入荷するだろう。

現在入荷しているものの目玉は、昨春にフランスで出版されたラカンの新刊、"Autres Ecrits"だが、これはまだ在庫がわずかに残っている。さらに、前回「仕事の関係でご紹介できない」と書いた大型新刊も、まもなく入荷する。ソシュールの"Ecrits de linguistique generale"である。1996年にジュネーヴで発見された彼の一般言語学にかんする草稿がようやく解読され、ガリマールから先月刊行されたのだ。当然のことながら、フランスの"La Quinzaine Litteraire"や"Liberation"や"Le Monde" などの各紙が熱心に取り上げており、2月8日付けの"Le Monde"紙でもロジェ=ポル・ドロワが賛辞を送っていた。本書は四部に分かれ、第一部が"De l'essence double du langage"、第二部が"Item et Aphorismes"、第三部が"Autres ecrits de linguistique generale"、第四部が"Notes preparatoires pour les cours de linguistique generale"となっており、部分的にエングラー版で補っている。まさに「存在しない」と思われていた原稿が発見され、こうして書物になるのだから、言語学界にとってはまさに「聖書の原資料」ともいうべき貴重なものなわけで、私も戦慄と歓喜がないまぜになった気分だ。

気になる日本語訳だが、これまで原資料に取り組んできた篤実な研究者がすでに着手しており、今回のガリマール版では随所に目立っている判読不能の空欄をより解明した、いわば最新校訂版ともいうべき翻訳が準備されている。版元は、今のところご想像にお任せする。というか、これまでどの出版社がソシュールに取り組んできたかを見れば、お分かりになるだろう。難物だけにかなり作業に時間がかかるだろうが、数年のうちに完成するのではないか。非常に楽しみである。

さて、話題は変わるが、この連載はリアル書店と繋がっていくことによって、新しい展開ができるようになり、本の紹介を一点に絞らないリポートが増えそうである。今回もそうなのだが、ソシュールのほかにもうふたつ、ぜひ触れないわけにはいかない話題がある。

ひとつは、前号でもトピックで取り上げた、今週27日に開催されるマッシモ・カッチャーリの講演会に関連することだ。一橋記念講堂でのレクチャー「群島としてのヨーロッパ」は、彼の著書『ヨーロッパの地-哲学』(94年)や『群島』(97年)で展開されたヨーロッパ論を中心に、欧州統合過程の思想的課題を主題としているとのことだが、この二著は残念ながらまだ邦訳がない。しかし彼の天使論"L'Angelo necessario"(86年)はまもなく人文書院から柱本元彦氏の訳で出版される予定であり、ひょっとすると、全国の書店店頭での発売に先駆けて、会場での販売に間に合うかもしれない(*1)。さらに、『群島』(原題は"L'Arcipelago")もこのたび月曜社から邦訳出版されることになった。イタリアで刊行された彼の単独著で一番新しいのはこの『群島』なのだが(*2)、ちょうど一年前(2001年3月)に、ジャンフランコ・ベッティンとの対談集"Duemilauno: Politica e futuro"がフェルトゥリネッリから刊行されている。本書ではまさに現代社会の鏡に照らした彼の政治的戦略が語られているので、今回の来日でも論点が重なってくるだろう。彼の本は三省堂で仕入れてもよかったのだが、神保町のご近所にはイタリア書房という立派な洋書店がある。急いで購入したい方は立ち寄られるといいだろう。http://www.book-kanda.or.jp/kosyo/1085/1085-01.htm

なお、カッチャーリは4月2日(火)に、国際シンポジウム「都市の政治哲学をめぐって:ヨーロッパ/アジアの地-哲学」の場でも基調講演をする。こちらもお見逃しなく。どちらの会も入場無料というのが嬉しい。詳しい情報は、東大の田中純教授のHPを御参照。http://ziggy.c.u-tokyo.ac.jp/

もうひとつのトピックに移ろう。同じイタリアの哲学者の情報だが、ネグリとハートの問題作『帝国』("Empire"2000, Harvard University Press)のイタリア語版が先月、リツォーリ(Rizzoli)からついに刊行された。当然、私は即注文をした。何か新しいテクストが加えられていることを期待して。しかし、諸姉兄、ありませんでした。日本語を含む各国語の「帝国」をあしらった、黄色のド派手なカバー(日本語は「帝国」ではなく「エンパイヤ」と印字されているのが笑える)には印刷されていないが、奥付によれば、イタリア語訳を行ったのは、本文担当のアレッサンドロ・パンドルフィAlessandro Pandolfiと、脚注および参考文献担当のダニエレ・ディデロDaniele Dideroの二人であり、ざっと見る限りでは、英語原文に忠実に訳しており、原版と違うのは索引だけだ。訳者による覚え書きや解説や序文などといったものもなく、ネグリが作成していたかもしれないイタリア語のノートを活用したかどうかもわからない。残念。

しかしこのイタリア語訳"Impero"、非常に売れているようで、先月で四刷まで刷られている。私が手にしているのがまさにその四刷なのだが、ひょっとしたらまだ重版しつづけているのかもしれない。イタリア語の利用者は本国をおいて少ないだろうから、この重版は驚きである。よっぽど急いでいたらしく、誤植がそのままになっている箇所もあるが、リツォーリのような大手が力を注いでいることは間違いないだろう。

イタリアでの反響は大きいらしく、刊行直後の2月23日と24日にはネグリ自身を交えてシンポジウムがヴェネツィア建築大学(カッチャーリが市長を退任したあとにここで教授として奉職している*3)で開かれた。しらがの目立つ髪を短く整え華奢な眼鏡をかけたネグリの写真や、落ち着いた声だがやや早口の彼のスピーチを始め、シンポジウムの詳細が次のサイトで視聴・閲覧できる(イタリア語)。必読必聴である。http://www.sherwood.it/controimpero/ さらには以下のサイト"Spaziopiu"で、書評や関連論文をチェックできるので、ご覧いただきたい。http://www.spaziopiu.it/socialforum/impero.htm

「娑婆」に出たネグリを見て感慨深くなる人もいるだろう。イタリアに帰還した直後よりも、彼はより自由な外出を認められるようになったのだろう。彼とハートの『帝国』は、「911」以後、反アメリカ的であると強く非難されるようになっていると聞くが、彼はイタリア政府当局だけでなく、アメリカからも要注意人物と見なされるようになったのだろうか。誰もが彼のかつての写真のあのトレードマークのような癖っ毛の蓬髪をいつでも思い浮かべることができるだろうが、いまこうして白髪頭になった彼にまだ本当の自由が訪れていないということ、その一事に思いを寄せる人は少ないのかもしれない。彼はいまだ冤罪の刑期を終えていないのだ。 [2002年3月25日]

[追記]
*1:事実間に合った。京都から営業のKさんがダンボールいっぱい、出来上がったばかりのを会場販売していた。私も買いました。美しい本です。

*2:フランスでは2000年2月に『舞踏する神』"Le dieu qui danse" ISBN : 2246593514という評論集をÉditions Grasset & Fasquelleから刊行している。スペイン語訳もあるが、イタリア語版は刊行されていない。

*3:正確に言えば、カッチャーリは1985年以来、ヴェネツィア建築大学の美学の正教授職にあり、1993年から2000年までヴェネツィア市長をつとめるかたわら、授業はないものの教職も保持していたとのことだ。イタリアではそうした公職との兼任が許されるようで、現在もヴェネト州の州議会議員をつとめている。

出典:「[本]のメルマガ」mailmagazine of books vol.100 [ついに100号です号] 2002.3.25.発行より。

※参考までに第100号の目次とトピックス記事、編集後記と奥付を以下に引用します。

■CONTENTS----------------------------------------------------------- 
★トピックス

→イベント、電撃移籍、国際ブックフェア、新店情報など。

★「脱・書店員日記」/aguni(あぐに)
→連載最終回。eペーパーとコンテンツホルダーの未来をめぐって。

★「現代思想の最前線」/五月(ごがつ)
→ソシュール、カッチャーリ、ネグリについて。ネグリの肉声はここで聞け!

※今回もウタさん・タウさんとも本業激務による多忙につき休載です。

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■トピックス
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■ペヨトル工房がファイナル・イベントを西部講堂で開催予定

2000年春に解散したペヨトル工房がファンのラブコールを受けて、最後の大イベントを、2002年5月11日(土)と12日(日)に京大西部講堂で敢行する。題して「ペヨトル・イン・西部講堂2002【memory】」。出演者に笠井叡や田中泯、丹野賢一、abe"M"ARIA、浅野つかさなどの舞踏家およびダンサーのほか、森村泰昌(現代美術作家)、蔡國強(現代美術作家)、畠山直哉(写真家)、藤本由起夫(現代美術作家)、野村誠(作曲家・鍵盤ハモニカ演奏家)などがエントリー。若手アーティストが多数参加予定のほか、飛び入りスペシャルゲストもあるかも。主催は今野裕一(元ペヨトル工房主宰)を始め、ペヨトルファンサイト主宰者の黒木實(仏文学翻訳者)や、佐東範一(制作者、グルービズムカンパニー代表)、樋口ヒロユキ(ライター、暗黒番長)といったメンバーからなる「ペヨトルin西部講堂2002実行委員会」。大まかなタイムテーブルは、以下の通り(予定)。

5月11日(土)開演16:00…出演(50音順。トリは●)浅野つかさ、アベマリア、丹野賢一、野村誠、畠山直哉、藤本由起夫、森村泰昌●、深夜…ビデオ上映(※ペヨトル工房が関連したビデオ作品やアニメーションの上映会)。 
5月12日(日)昼…ビデオ上映。開演17:00…出演(50音順。トリは●)浅野つかさ、アベマリア、笠井叡●、丹野賢一、野村誠、畠山直哉、藤本由起夫、田中泯(予定)。詳しくは以下のページで!
http://www.yo.rim.or.jp/~hgcymnk/peyotl/index.html


■bk1安藤店長、電撃退任し、糸井重里事務所へ移籍

オンライン書店bk1の店長であり、ブックス安藤のカリスマ店主の安藤哲也氏が、今月(2002年3月)31日をもって、bk1(株式会社ブックワン)を退社、4月からは、東京糸井重里事務所に移籍することになった。安藤氏が配信しているメールマガジン「AND SENCE」で3月18日に明らかにした。安藤氏は自著『本屋はサイコー!』(新潮OH!文庫)を昨年末に刊行してからまだ日が浅く、その華麗なる転身に注目が集まっている。安藤氏はメルマガで移籍の理由を“そろそろ業界から少し距離を置いて、「本」「出版」について俯瞰&再考してみたかった。「ほぼ日」はお気に入りだし、糸井事務所はそれ以外にもいろんな仕事をしており、それらを経て仕事の幅を広げたい。スーツ着なくていいし、通勤も楽だから(三田線で1本)”とコメントしている。将来的には“自分の直感を信じて、読者のため、著者のため、自分のために存在するオルタナティブな書店を創りたい!”と意味深長な発言も。なおブックス安藤は退職後も続けるとのこと。また、組織変更のため、bk1からいわゆる「店長」職はなくなることになった。http://www.bk1.co.jp/s/ando


■東京国際ブックフェアが過去最大規模で4月18日から4日間開催

業界の一大イベント「東京国際ブックフェア2002」が、来月18日から21日までの4日間、恒例の東京ビッグサイトで開催される。欧米や中国など世界25カ国から550社を上回る企業が出展、アジア地区で最大規模の見本市だ。国内・海外の展示ブースのほか人文・社会科学書、自然科学書、児童書、学習書・教育ソフト、デジタルパブリッシング、編集制作プロダクションなど六つのフェアが同時開催され、20日と21日の一般公開日には各ブースごとに著者サイン会や会期中限定の割引セールを行う(これが非常に好評)。三割引から最高八割引の洋書バーゲンや出版社による自社本割引セール、日書連によるサンジョルディの日特別ブースでのバーゲン本販売など、掘り出し物がいっぱい。専門セミナーでは、ノンフィクション作家の佐野眞一氏による講演「激動の出版業界/『本』は生き残れるか」のほか、業界向けの各種無料イベントが準備されている。http://web.reedexpo.co.jp/tibf/


■紀伊國屋書店横浜店が横浜そごう7F丸善の後継で来月新規オープン

小売書店の最大手チェーンである紀伊國屋書店の新規およびリニューアル出店が続いている。3月14日には、そごう神戸店新館(神戸市中央区小野柄通8−1−8)の5階に、神戸店を開店。国内店舗の57店舗目となる。同じ日に、そごう西神店(兵庫県神戸西区糀台5−9−4)の5階でも、西神店がオープン。20日には西武大津ショッピングセンター(滋賀県大津市におの浜2−3−1)の2階に、西武大津店を開店させ、来月(2002年4月)4日には、高槻店(大阪府高槻市白梅町4−1西武高槻ショッピングセンター5階)を増床リニューアルオープンさせる。高槻店では約100坪の売場増となり、人文・社会科学をはじめとした専門書の品揃えを充実させるという。さらに4月24日にはそごう横浜店(横浜市西区高島2−18−1)の7階に、撤退した丸善の後を受け、横浜店をオープンさせる予定。600坪の売場面積でこちらも専門書を重視した品揃えになるようだ。有隣堂の地盤を切り崩すことができるかどうか、勝負の行方が気になる。http://www.kinokuniya.co.jp
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■編集同人備忘録
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100号をお届けします。ここまでけっして短い道程ではありませんでした。これからも、細く長く読者の皆様とお付き合いができればと念願しています! 最後にひとこと。今回も配信がずれ込んでごめんなさい。  五月
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