[本]のメルマガ」誌より部分転載

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■「現代思想の最前線」/ 五月(ごがつ)
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第31回:デ・ランダのドゥルーズ論から小林秀雄のベルクソン論の封印解除へ

このコーナーと共同戦線を張っている三省堂書店神田本店4F哲学思想書売場の洋書情報から。ソシュールの『一般言語学草稿』(2002年、ミニュイ)がまたしても売切、予想通りとはいえ、ソシュール熱は冷めませんね。サイモン・クリッチリーの『ヒューモアについて』(2002年、ラウトレッジ)も売切。昨年来、ずいぶんクリッチリーは人気が出てきました。ヌスバウムの講義録も再入荷したことを皆さんにここでお伝えする前に売切。売切情報ばかりでうれしいやら申し訳ないやらだが、棚回転中のドゥルーズの論文集『無人島』も含め、再入荷する予定なので、気になる方はお店に問い合わせるなり予約を入れるなりしてみてほしい。

新入荷は、William E. Connollyの"The Augustinian Imperative: A Reflection on the Politics of Morality"の新版だ。版元はRowman & Littlefield Publishingである。アメリカを代表する政治学者の一人であるコノリーと言えば、日本でも『政治理論とモダニティー』(金田耕一ほか訳、昭和堂、1993年、ISBN:4-8122-9308-1)や、『アイデンティティ\差異:他者性の政治』(杉田敦ほか訳、岩波書店、1998年、ISBN:4-00-002478-7)などの骨太な著書が邦訳されている。今回の新刊は約十年ぶりに改訂された新版だ。

また、近く入荷してくれる(はず)のラインナップの中には次の注目作がある。"Intensive Science and Virtual Philosophy" by Manuel De Landa,
2002, Continuum, ISBN:0826456235 だ。『機械たちの戦争』(杉田敦訳、アスキー出版局、1997年、ISBN:4-7561-1983-2)や『非線形的歴史の一千年』(未訳、Zone Books、1998年[ペーパーバック版は2000年]、ISBN:0942299329)などで知られる、メキシコ生まれの批評家マヌエル・デ・ランダ(1952-)の待望の最新作で、「ドゥルーズとヴァーチャル」をテーマにドゥルーズ哲学の新たな評価を試みている。彼はドゥルーズの思想を、分析哲学やヨーロッパ哲学と現代科学(自己組織化研究、非線形力学、複雑系理論など)の学問的地平の根本を理解する上で欠かせない核心である、と見ている。全256頁で目次は以下の通り。

Introduction: Deleuze's World   (p.1)
1 The Mathematics of the Virutal: Manifolds, Vector Fields and
Transformation Groups    (p.9)
2 The Actualization of the Virtual in Space    (p.45)
3 The Actualization of the Virtual in Time    (p.82)
4 Virtuality and the Laws of Physics    (p.117)
Appendix: Deleuze's Words    (p.157)
Notes   (p.181)
Index   (p.241)
 
本書は日本への新刊配本がとみに少ないコンティヌウム社のシリーズ、Transversals: New Directions in Philosophyの一冊として3月末に刊行されている。たぶん国内の洋書店で見かけた人は少ないだろう。国際的な出版社なのだが、ホームページの更新もいまひとつキレが悪い。私は上記書目に関連する情報をサイトでいまだに見つけることができないでいる。というか、ない。
http://www.continuumbooks.com/

このデ・ランダの新著は、前回ご紹介した、ブライアン・マスミの最新著"Parables for the Virtual: Movement, Affect, Sensation" by Brian Massumi, 2002, Duke University Press, ISBN:0-8223-2897-6とあわせて読まれると良い。ドゥルーズとヴァーチャルなものをめぐる研究は、『批評空間』誌第II期以後の折々のドゥルーズ小特集で取り上げられてきた。この主題は何も新奇なものではなくて、ベルクソンが『時間と自由』や『物質と記憶』などで問うてきた問題圏の延長上にあると考えていい。直観的に言えば、今月ついに刊行された小林秀雄全集(第五次)別巻1「感想」(新潮社、2002年、ISBN:4-10-643535-7)におけるベルクソン論を読み直すことと、デ・ランダやマスミ、エリック・アリエズらのドゥルーズ論を読むこととは、刺激的な共振関係を産み出し得る。もっとも私個人がそのような予感を抱きながら読んでいるというだけで、それらの議論に共通性を認めたり同定したいわけではない。ただ、ベルクソン哲学の磁力は非常に強いものだと認めなければならないのではないか、と感じている。

ベルクソンの原典の新訳は最近さかんに行われている、と言っていいかもしれない。ここわずか2年だけでも、『思想と動くもの』の新訳や、『時間と自由』の新訳2種類が刊行されている。
『思考と運動(上下)』宇波彰訳、レグルス文庫(第三文明社)、2000年9月、ISBN:4-476-01233-7 / 4-476-01234-5
『時間と自由』中村文郎訳、岩波文庫、2001年5月、ISBN:4-00-336459-7 
『意識に直接与えられたものについての試論』合田正人・平井靖史訳、ちくま学芸文庫、2002年6月、ISBN:4-480-08705-2

そしてベルクソンが公刊を禁じた講義録も、全4巻で昨秋邦訳が完結した(法政大学出版局)。同じく出版を禁じられた小林秀雄のベルクソン論「感想」のなかで、小林はベルクソンの遺言を引きながらこう述べる。

「世人に読んでもらいたいと思ったすべてのものは、こんにちまでにすでに出版したことを声明する。将来、私の書類その他のうちに発見される、あらゆる原稿、断片、の公表をここに、はっきりと禁止しておく。私のすべての講義、授業、講演にして、聴講生のノート、あるいは私自身のノートの存するかぎり、その公表を禁ずる。私の書簡の公表も禁止する。J・ラシュリエの場合には、彼の書簡の公表が禁止されていたにも係わらず、学士院図書館の閲覧者の間では、自由な閲覧が許されていた。私の禁止がそういうふに解されることにも反対する」
 ずいぶん徹底したものだ。この遺書の、法律上の実効はどういうことになるか、私にははっきりしないが、これが、彼が公表した、彼の最後の思想であると見れば、感慨なきを得ないのである。彼は、「道徳と宗教の二源泉」で、真の遺書を書き終えた、と念を押したかったのであろう。自分の沈黙について、とやかく言ったり、自分の死後、遺稿集の出るのを期待したりする愛読者や、自分の断簡零墨まで漁りたがる考証家に、君たちには何もわかっていない、と言っておきたかったのである。

(『別巻I』17頁よりの上記の引用では、仮名遣いを改めたり、漢字を開いたりすることについて、引用者の判断で自由に行ったことをお断りしておく。)

小林のこのベルクソン論自体もまた、雑誌連載が途絶した後は、単行本化や全集への組み込みを著者自身から禁じられていた。彼はこのベルクソン論を「失敗作だ」と明言していた。しかるに新潮社は、『別巻I』の緒言で手短にこう記した。一部を引用する。

……著者の没後数十年を経る間に、かつての「新潮」連載稿に拠って、著者を、あるいはベルグソンを論じる傾向が次第に顕著となり、もし現状で先々までも推移すれば、著者の遺志は世に知られぬまま、著者の遺志に反する形で「感想」が繙読される事態は今後ともあり得るとの危惧が浮上した。よって今般、著作権継承者容認のもと、第五次全集に別巻を立ててその全文を収録し、巻頭に収録意図を明記して著者の遺志の告知を図ることとした。著者には諒恕を、読者には著者の遺志に対する格別の配慮を懇願してやまない。……

格調高い文章だが、恐らく故人は大いに憤懣を感じているだろう。別に新潮社を責めているわけではない。だが、小林の遺志は緒言にあるような手短な伝言で読者に伝えきれるような質のものではない。いや、言葉を費やせば解決するというわけでもない。告知という困難な作業。このベルクソン論が第5次全集の「目玉」だと知ったら(「目玉」だと言ったのは結局誰だったのか、ちなみにオビ文にはこうある、「著者の遺志、その告知のために特別収録/永久封印のベルグソン論」)、小林は呆れるだろう。どう読もうと読者の勝手だ、しかし「そっち」じゃないんだよ、とハッキリした声が聞こえてくるような気がする。ではどっちなのか。言うまでもない、本居宣長論であろう。

小林のベルクソン論は決定的に重要である。しかし、そちらへ列をなす読者を、故人は本当は一人ひとりののしって、引き戻したいだろう。それは失敗作が恥ずかしいからではない。どんな料理人だって、自分のつくったメインディッシュより失敗作の鍋に客が興味津々で列をなせば、腹が立つだろう。なにやら小林秀雄の似非霊媒のような書き方をしている。ほとんど無内容なことしか書いていない。この辺で脱線も止めなければならない。

前回の話題に続く報告を最後にひとつ。ちょうど今週、月曜社からアレクサンダー・ガルシア・デュットマンの新刊『友愛と敵対:絶対的なものの政治学』が刊行された(本体価格2200円、ISBN:4-901477-02-1)。その記念に、小冊子をつくった。アガンベン著『アウシュヴィッツの残りのもの』(月曜社)の、ガルシア・デュットマンによる書評2篇を邦訳収録している。この小冊子は、月曜社の手づくりPR誌「月曜」の創刊号となる。いや創刊号と言っても、これからどれくらい継続できるかわからないから、創刊号とは名付けない。手づくりというのは実際、ワープロ文書をプリントアウトしてコピーし、手ずから折ってホチキス留めをしたものだからである。もちろん通常の流通ルートには乗らない。ごくわずかの書店にしかそれは置かれない。いまのところ、三省堂神田本店、ジュンク堂池袋店、リブロ池袋店のそれぞれ人文書売場の片隅に、小部数が近日中に届けられるだろう。ウェブ上での公開は当面ない。ないないづくしだが、通常のプロモーションから解放された自由なことを(とはいえ原著者からの許諾はいただいている)やりたかったのだ。[2002年6月24日]

 

初出:「[本]のメルマガ」mailmagazine of books vol.109 [4900名様ジャスト 号] 2002.6.25.発行より。

※参考までに第109号の目次とトピックス記事、奥付を以下に引用します。

■CONTENTS----------------------------------------------------------- 
★トピックス
→イベント、オンライン書店情報、新刊情報など。

★「公開討論『絶版論争:なぜ再刊できないか/いかに再刊するか』」第2回
→重版することの難しさを出版社側から証言する、現場の声がここに。

★「S_h_o_r_t_ S_t_o_r_y_ S_t_r_e_a_m_」/ aguni(あぐに)
→やっぱりワールドカップをめぐるあれやこれやのニュースが笑えるでしょう

★「現代思想の最前線」/ 五月(ごがつ)
→脱線につぐ脱線?デ・ランダのドゥルーズ論から小林秀雄のベルクソン論へ

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大 人 は 愉 し い――メル友おじさん交換日記    6月25日刊行
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■内田樹・鈴木晶 著/46判並製/238頁/ISBN4-925220-06-3/本体1800円
■発行:冬弓舎( http://thought.ne.jp/ )    地方・小センター扱い
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この交換日記の基調音は、擬音化すると「バシバシ」というよりは、「む
むむむむ」というようなものになるのではないかと思います。(本書より)
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■トピックス
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■7月は青山BC本店の注目イベントが目白押し!

酒井直樹氏講演会「思想史を、複数のメディアの交差の場所へと解き放つこと」

日時:7月1日(月)開場18時半、開演19時、21時終了予定
場所:青山ブックセンター本店カルチャーサロン
入場無料、但し要電話予約
予約、お問い合わせ電話番号:03−5485−5511

6月20日に以文社から刊行される氏の主著「過去の声」の刊行記念として、急きょ催されることに。青山ブックセンターのトークイベントには3度目の登場となる。日頃は米コーネル大学で教鞭を執られる酒井氏の肉声に触れることのできる、貴重な機会をどうぞお聴き逃しなく!


蓮實重彦氏連続講義「蓮實重彦とことん語る」第二回「日本映画を語る」

日時:7月12日(金)開場18時半、開演19時、21時終了予定
場所:青山ブックセンター本店カルチャーサロン
入場無料、但し要電話予約
予約、お問い合わせ電話番号:03−5485−5511

5月に第1回が行われた蓮實重彦氏の連続講義、ついに第2回の日程が決定。東大総長時代にまして多忙を極める氏が、全4回の連続講義を行う。東京大学でも、立教大学でも伝説として語り継がれる氏の名講義に遭遇するチャンスだ。なお、第3回は現代思想について、第4回は日本文学について講演する予定。※これらの連続講義はすべてCD化を前提として企画されています。当日録音を行なうため、ご協力をいただく場合がございます。宜しくお願い致します。


西谷修氏×石田英敬氏×小森陽一氏シンポジウム「9・11以後とメディア」

日時:7月15日(月)開場18時半、開演19時、21時終了予定
場所:青山ブックセンター本店カルチャーサロン
入場無料、但し要電話予約
予約、お問い合わせ電話番号:03−5485−5511

東京大学出版会「シリーズ言語態」全6巻完結記念のシンポジウム。「911」によって世界は何が変わったのか?テレビ、新聞などのメディアが社会を構成するという視点から、同時テロがもたらした状況について、シリーズに深くかかわった3氏が徹底討議する。

http://www.aoyamabc.co.jp/


■中沢新一「カイエ・ソバージュ」最新作刊行記念特別講演

中沢新一が講談社メチエの連作として本年1月から刊行している講義録「カイエ・ソバージュ」の第2巻『熊から王へ』の刊行を記念し、リブロ・コミカレ特別セミナーとして講演会が開かれる。スリリングな知の冒険へ参加しよう!
 
日時:7月21日(日) 16:00〜
会場:8F池袋コミュニティ・カレッジ 3・4番教室
お問い合わせ:リブロ池袋店(Tel:03-5992-8800)
コミカレ&注文カウンターにて参加券発売中 ¥1000(税別) 定員150名様

http://www.libro.jp/


■ヴィレッジ・ヴァンガードの公式サイトがリニューアルのためしばらく休止

おもちゃ箱をひっくり返したような独特な品揃えとインテリアで、従来の書店像を塗り替えた、名古屋発の書店チェーン「ヴィレッジ・ヴァンガード(以下、VVと略記)」のオンライン店舗「ヴァーチャルヴィレッジヴァンガードショッピング」が、今月3日の予告通り、リニューアルの為、6月17日(月)をもって一時休止に入った。ただし、完全なサイトのクローズではなく、全国のVVの住所録と地図は引き続き公開されている(i-modeでも地図が確認できる)。他社のオンライン書店とは違い、仮想空間で様々なアソビと趣向を凝らし、ちょっ
としたショートアニメもあった旧サイトは、「よりパワフルなショッピングサイトとして生まれ変わる」と予告されており、期待大だ。再オープン日はまだ確定していないものの、ファンサイトが出現した書店は、全国広しといえどもVVのみ、早期開店がはやくも待ち望まれている。

http://www.vvvnet.com/index.html


■森山大道最新写真集『新宿』が7月下旬ついに発売

いまや世界的に著名なカリスマ写真家・森山大道が長年撮りためてきた新宿の光と影が、来月ついに1冊の写真集に結実する。森山氏は最近、宇多田ヒカルのサード・アルバム「Deep Rever」のプロモーション・ポスターを新宿にて撮影。貴重な写真パネルが6月19日から23日まで全国のCDショップで限定公開されたばかりだ。もちろん『新宿』は宇多田ヒカルの写真集ではなく、建築雑誌『10+1』などで部分的に公開されてきたもの。新宿の様々な顔が、作家特有の荒い粒子の写真の中で呼吸する。収録点数は524点、判型はB5変(タテ247mm、ヨコ182mm、ツカ35mm)並製カバー装600頁という圧倒的ヴォリューム。月曜社より7月下旬に刊行予定。本体価格7200円、ISBN:4-901477-03-X

月曜社サイト http://biblia.hoops.jp/getsuyosha
森山大道公式サイト http://www.moriyamadaido.com/
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