---------------------------------------------------------------------
■「現代思想の最前線」/五月(ごがつ)
---------------------------------------------------------------------
第34回 人文社会系英米語洋書フェア2002顛末記(前編)

よのなか、イブだクリスマスだイルミネーションだとほんわかしているようですが、私は風邪っぴきで。けっこう流行っているようで、私の場合、頭痛、発熱、鼻水の症状が長引いて困っています。何で長引くかと言えば、家族中が風邪をひいたからで、お互いに看病が行き届かないわけです。読者の皆様も、お体をお大事に。

さて、昨年末は「英米語圏の2001年人文社会書ベストを勝手に選んでみる」という記事を書いて、三省堂書店神田本店4F人文書売場でのフェアと連動させた。おかげさまで好評で、担当者から「今年も」とのお声があったので、勇んで準備に参加した。昨年の選書方式は、私が平素「ウォッチ」している書き手数十名のデータを、オンライン洋書店の検索などで一人一人洗い出し、2001年に刊行された書目を拾っていく、というものだった。これはそれなりに時間がなければ出来ない作業で、一年前より確実に忙しくなっている昨今では都合がつかない。そこで今回は、洋書取次のUPSさんの店売にお邪魔して、棚で現物を確認しつつ抜いていく、という方式をとった。

取次の店売というのは、ようするに、版元各社の商品を在庫しておく開架であり、取次の営業マンや、書店人がそこから商品を抜いていく流通倉庫である。もちろん一般客は入れないし、購入もできない。しかし品揃えについて言えば、一般書店よりは種類も冊数もあるので、本好きにとっては一度は覗いてみたい「夢の場所」である(大げさに言うとそうなる)。私は、休日返上の三省堂担当者と一緒にUPSを訪れ、棚から直接選書した。この作業には作業日数を短縮するという意図もあった。私が選書した書目を海外発注して、その入荷を待つとなると、取寄せに時間がかかってしまうからである。直接選書に出向くことによって、店頭に納品可能となる期日を短縮できる。

書誌データを検索するのと違い、現物をチェックしながらの選書は、やはりおのずから作業の質が違ってくる。UPSの営業のAさんやH課長の全面的な協力のもと、選書作業を二日がかりで終えた。AさんやH課長の温かく手厚いご配慮とご支持がなければ、今回の作業は絶対不可能だった。深く深く感謝を申し上げるのみである。そもそも私がUPSさんの店売という「聖地」に踏み入るきっかけになったのは、別の事情があった。私は三省堂担当者と毎月仕入れる洋書の選書をしていたわけだが、UPSさんが、私の選書に興味を持ってくださったのである。それが、今回の出会いのきっかけだった。私自身も以前より、各書店の洋書担当者からUPSさんのことはつとに伺っていたので、こうしたプロ集団の方々といつかはお会いしてみたいと思っていた。

三省堂担当者の仲介でAさんと連絡を取り合い、懇談する機会を得た。Aさんは私と同い年ということもあり、距離感はなかった。もったいなくも、H課長とAさんから、UPSの営業マンの皆さんの「研修会」の場に参加を要請され、非力を省みず、「現代思想と洋書販売」と題してレジュメを切ったり、発表を行ったりすることになった。洋書店の現場の方もお見えになる研修会となり、これはずうずうしいまでの自分の無神経さがなければ、即刻ご辞退するべきものだったろう。「青年の主張」もどきをご清聴くださった参加者の皆さんには頭が上がらない。

さて選書である。UPSさんは大学出版関係に強く、MITやスタンフォード、ミネソタ、ハーヴァードなど、背の高いスチール棚いっぱいの洋書を初めて見た。点数、物量ともにやっぱり多い。初日の半日のみの時間内ではどうにも見終わらなかった。そこでもう一日お邪魔することになり、もう半日を選書に費やした。三省堂担当者のSさんも休日だというのによくぞお付き合いいただいたものである。Aさんからのヒントを参考に、私はいわゆる「リーダー」を集中的に集めることにした。リーダーというのは、ひとつのテーマに沿った色んな書き手の色んな論文が読める、入門的アンソロジーである。日本で言うと、「講座」ものに近いイメージである。

選書リスト http://biblia.infoseek.ne.jp/g/bestlist02.htm
フェア台の様子(写真) http://biblia.infoseek.ne.jp/g/pic021222.htm

上記の選書リストの明細を見ていただきたいが、今年は2002年に刊行された書目を中心に、今まで三省堂で仕入れたことのない銘柄もピックアップしてみた。書名や編者名だけではわからないと思うので、ぜひ店頭で現物を確認してみて欲しい。リーダーの楽しさというのは、やはり個別のテーマに沿った基礎的文献をまとめて読めるという点がまずある。また、新しいテーマや学際的なトピックを扱うリーダーなら、最新動向や新しい書き手ともめぐり会える。このジャンル横断的な論文の発見や、新たな著者との出会いもまた、楽しい。研究者や編集者は当然こうしたリーダーには目配りしておかなければならないが、店頭でまとめて見る機会というのはまずめったにない。

というのも、ここしばらくの不況のあおりで洋書売場は縮小の一途をたどる傾向にあり、それなりの売場面積を確保しているのは大書店チェーンのごく一部の店舗に過ぎない。もともと大きく展開している売場はいいが、中小規模は採算やマネージメントの上でも売場を縮小されやすい。中途半端に展開しているような場合は特に、和書以上に売場ごと「リストラ」の対象となる場合が多い。書店は総じて、「短期日に大きく売上を回収する」という必要に迫られており、出足のゆっくりしているジャンルはザクザク切り捨てられることになる。すなわち、専門性の高い分野や商品はいつも真っ先に切り捨てや見直しの対象となるのである。

他店との差別化を目指して多種多様な本を揃えたというのに、やっぱり採算がとなるとまた一挙に「金太郎飴」に戻ろうとする。そんな書店に魅力はない、と私は断言しておきたい。辛口に言っておく。単純に金儲けしたいなら、本屋ではなく、別の小売形態を目指した方がいい。店づくりを「長い目」で見れなくなり短期的な目先の利益だけを追究する売場には、面白味がないし、そこで働く人も仕事を面白く感じないだろう(それは版元も同じだ)。

なぜなら、書物という存在がもっている固有の時間性は、長いものでは数千年のものがあり(私はいま例えば『聖書』や『論語』や『マハーバーラタ』のような書物を思い浮かべている)、少なくとも文化の数十年、数百年の流れやうねりの上に、書物というのは出来上がるからである。つまり、売る側が急いている時間のスパンと、売られる書物が内在させている時間の波長が合わないということがしばしば起こっているのである。そのミスマッチに気づかずに、やれ本が売れないだ、これは売れない本だ、などと言っている書店人や出版人に私は嫌気がさす。いったい何を基準にして彼らはおしゃべりしているのだ。もちろん泡沫のように作られ売られていく紙の束というものも、なかには確かにある。しかし、十把一絡げにはできない。目先の金勘定の貧困な目盛りで書物を測ろうとしたって、良いことは何もない。賢明な読書人たるもの、手ぬるい書店や怠惰な版元などはもっと叱り飛ばすべきである。

さて、私のおせっかいな「原論」などはもういい。洋書フェアは実は先週月曜日(16日)からスタートしており、売れている書目の中には例えば次のような書目がある。

"Provincializing Europe" by Dipesh Chakrabarty, Princeton University Press, ISBN: 0691049092  3,360円

"Modernity at Sea" by Cesare Casarino, University of Minnesota Press, ISBN:0816639272  4,950円

"The Empire of Disorder" by Alain Joxe, Sermiotex(e)/MIT Press, ISBN:1584350164  1,690円

"Crepuscular Dawn" by Paul Virilio & Sylvere Lotringer, Sermiotex(e)/MIT Press, ISBN:158435013X  2,420円

なるほど。皆さん良いお買い物をしている。例によって仕入れている書籍はだいたい各一冊という場合が多い。上記のジョックスとヴィリリオは複数冊仕入れていたはずだが、チャクラバルティやカサリーノは追加してもいいのかもしれない。カサリーノの著書はマイケル・ハートやブライアン・マスミらが編纂しているかの名シリーズTheory Out of Boundsからの一冊。副題には「危機におけるメルヴィル、マルクス、コンラッド」とある。一目見て、おやっと思わせる書目だ。来店された皆さんにはぜひ、単行本も含め、リーダーをとにかく手にとって目次にくまなく目を通してもらいたい。必ず新たな発見があるに違いない。ここまで現代思想系のリーダーを一箇所に集めたフェアも珍しい。日本中どこを探してもたぶん、ない。オンライン書店で買うよりも、現物を手にとって見る方が、発見が多い。書誌データを眺めるより、現物の質量とアウラに触れるのが一番である。

フェアは1月19日まで、神保町の三省堂書店神田本店4Fの人文書売場で展開している。フェア終了までさらに新入荷があるので、それは逐一ご報告したい。昨年も書いたが、私は三省堂書店の担当Sさんから洋書フェアの件を相談された時、三省堂書店は懐の深い本屋だなあ、と感心した。それを今年もできるというので、正直びっくりしている。選書数は実に105点。前回の倍の規模である。むろん、三省堂書店とて、売上が悪ければ洋書を撤退させることもあるだろう。そんなわけでなんとか皆さんからのご好評を取りつけて、和書と洋書をミックスさせた売場を存続させたいのである。

遠方にお住まいの方でフェアを見に行きたくても行けない、という方もいらっしゃるかもしれない。上記のブックリストから購入を希望される方は、電話で三省堂書店4F人文書売場へ在庫を問い合わせていただき、宅急便などをご利用されて本を取寄せることも可能である。

次号では、売行良好書や特選本をピックアップして、もう少しいくつかの本に具体的なコメントを加えていくつもりだ。フェアの前口上と立ち上げ話は、今回はこの辺で。[2002年12月25日]

三省堂書店神田本店
〒101-0051 東京都千代田区神田神保町1-1 電話 : 03-3233-3312
営業時間:10:00-20:00 ※年内無休
4F人文書売場フェア「2002年人文社会系洋書ベストセレクション」
http://www.books-sanseido.co.jp/event_2000ca.html?MBR_NO=&SESSION

初出:[本]のメルマガ」第127号(2002年12月25日配信)

人文社会系英米語洋書フェア2002顛末記(後編)は→こちら

オマケ……第127号トピックス記事……「断裁アート」って何だ?

---------------------------------------------------------------------
■トピックス
---------------------------------------------------------------------
■新春恒例第10回青山ブックセンター洋書ビッグバーゲン2003

日時: 2003年1月10日(金)〜12日(日)10:00〜22:00
会場: 青山ブックセンター本店 カルチャーサロン青山
お問い合わせ先: 03-5485-5511(10:00〜22:00)

バーゲン会場特別企画:バーゲン商品1万円以上お買い上げのお客様に期間2日目、3日目にお使いいただける5%割引券を進呈。バーゲン会場にて5千円以上お買い上げの際は送料無料。

※写真家・島尾伸三さん+写真家・潮田登久子さん+まんが家・しまおまほさん「3-parties 」島尾さん・潮田さんが香港から仕入れる中国雑貨ほか、それぞれのお宝、作品などを展示・販売。10日(金)は島尾伸三さん、11日(土)はしまおまほさん、12日(日)は潮田登久子さん(最終的にご一家三人が集合する予定)が各日午後来場予定。アイリッシュ・ミュージック演奏なども予定しております。
※輸入CD(JAZZ)を980円均一で販売(協力/ユニバーサル・ミュージックIMS)
※輸入絵本とグッズによる福袋(1日30個限定、1000円)。
※著名人によるフリーマーケット、おすすめ本コーナー設置。
※グッドデザインカンパニーの雑貨屋「gg (ジジ)」会場内にOPEN。
※アンティーク・スイスグラフィックポスター展示・販売(協力/Glyph.)

本店店内でも洋書20%オフで販売(1/10〜1/31)。洋雑誌及び一部商品を除く。 
http://www.aoyamabc.co.jp

■「『写真時代』の時代!」(白水社)刊行記念トークセッション

ゲスト:末井昭氏、荒木経惟氏、森山大道氏、飯沢耕太郎氏
日時: 2003年1月19日(日)14:00〜16:00
会場: 青山ブックセンター本店 カルチャーサロン青山
お問い合わせ先: 03-5485-5511(10:00〜22:00)
要電話予約: 03-5485-5511(青山ブックセンター本店)
定員130名、入場料¥1,000

写真評論家:飯沢耕太郎氏が、80年代を席巻した伝説の写真雑誌「写真時代」を読み解く「『写真時代』の時代!」が、2002年12月に白水社から刊行された。編集者末井昭の伝説の采配、「写真時代」で活躍した代表的な写真家荒木経惟、森山大道らが現在は国際的にも評価されるなど、実験的な表現の場であった雑誌の総括は、日本の写真を語る上で重要なポイントとなるだろう。本書の刊行を記念し、著者の飯沢耕太郎が進行役となり、末井昭、写真家の荒木経惟と森山大道をゲストに迎えて、トークセッションを行う。

「『写真時代』の時代!」飯沢耕太郎=編著、白水社、¥2,800円、A5判/288頁(カラー16頁)誌面・目次再録、末井昭対談を収録。
http://www.hakusuisha.co.jp/


■奥平康弘×宮台真司トークセッション「新年に、憲法の原理を考える」

ジュンク堂書店池袋本店「JUNKU 連続トークセッション」
日時:2003年1月7日(火)午後6時半より
場所:ジュンク堂書店池袋本店4階カフェ
入場料:1000円(ドリンク付)
定員:40名(お電話又はご来店にてお申し込み先着順)
お問い合わせ:03-5956-6111(池袋本店)
http://www.junkudo.co.jp

憲法学の第一人者と若者の支持を集める社会学者が、憲法をテーマに世代を超えて討議し、一冊の本にまとめました。今、焦点になっている問題とはなにか。いよいよ、本書の完結編ともいうべき討論が始まります。

『憲法対論――転換期を生きぬく力』奥平康弘+宮台真司=著、平凡社新書
http://www.heibonsha.co.jp


■余った紙をリサイクル――上島松男「断裁アート」展

日時:2003年1月6日(月)〜2003年2月1日(土)  
場所:PROGETTO(川崎ラ・チッタデッラ内)店内にて

手製本の職人技でデザイナーからの信頼の厚い美篶堂(みすずどう)の上島松男氏。断裁アートとは、他の仕事で使用した余り紙を用いたリサイクルアートで、「イラストレーション」誌2002年7月号で紹介され、実際の作品を見たいという声が高まっていた。店内で作品の数々を展示し、同時に断裁アートからインスパイアされたグッズシリーズの数々も販売いたします。2003年1月10日(金)PM7:00〜9:00まで、上島松男断裁アート展記念レセプションパーティーを開催。参加無料だそうです。もちろん、上島松男さんを囲んでのパーティーになります。

※PROGETTO(プロジェット)は先月、川崎でリニューアル・オープンしました。渋谷で、個性派ブックショップとしてクリエイターを始め若者から絶大な支持を得ていた「PROGETTO」が、11月23日川崎駅東口にオープンしたエンタテイメントエリアLA CITTADELLAに全面移転。PROGETTOとは、イタリア語で「デザイン全般」の意。その名の通り、デザインから写真、建築、映画・音楽まで、ヴィジュアル書籍、雑誌を中心とした最先端のカルチャー本を豊富に取り揃え、クリエイターによるオリジナル・グッズ、CD、VIDEO、CD-ROMなども販売しています。

アドレス:210-0023川崎市川崎区小川町4-1 ラ・チッタデッラ
営業時間:11:00AM〜21:00PM
TEL:044-211-4616 FAX:044-211-4617
http://lacittadella.co.jp/tenant/all/progetto/index.html
http://www.progetto.co.jp/index.php
---------------------------------------------------------------------

「五月」トップページへ

copyright 2002 (c) Gogatsu


[PR]下半身ダイエット人気スパッツ:履いて寝るだけ!効果を実感してください