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■洋書フェア2003(前編)、そしてデュットマン再来日
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年末好例の三省堂書店神田本店四階哲学思想書コーナーにおける「人文社会系洋書ベストセレクション」フェアが今月18日から始まり、来月31日まで開催されている。

フェア台の写真 http://biblia.infoseek.ne.jp/g/fbf2003photo.htm
フェア書目 http://biblia.infoseek.ne.jp/g/fbf2003.htm

洋書フェアは三回目だが、今年はこれまでと違い、現場担当者のSさんが自ら選書しており、私は彼女が準備したリストに二、三の助言を与えたに過ぎない。幸い、某人文系出版社の若手編集者が選書のサポートをされ、フランス語書籍を今回からフェアに組み込むため、全面的に企画をバックアップした。氏はこれまでの洋書フェアの一定的成功を継続させるべきだと積極的に協力を申し出たわけである。いつも通り、商品調達を担当される取次「UPS」のAさんも変わらぬ支援をしてくださっている。

フェア開始後一週間たったが、出足の早かったのは次の本。一言ずつコメントを添えておく。

Death of Discipline
by Gayatri Chakravorty Spivak
Columbia University Press. ISBN: 0231129440

スピヴァクの講演録。彼女の思想的立場と方法論が明確に打ち出されていると思う。某出版社より翻訳出版が決まったようだ。

The Shortest Shadow: Nietzsche's Philosophy of the Two
by Alenka Zupancic
Mit Press. ISBN: 0262740265

ジジェクの盟友ジュパンチッチ女史のニーチェ論。カントとラカンを論じた前著『リアルの倫理』は河出書房新社から早くも日本語訳されている。

The Puppet and the Dwarf: The Perverse Core of Christianity
by Slavoj Zizek
Mit Press. ISBN: 0262740257

ジュパンチッチの前掲書とあわせ、ジジェクがMITプレスから繰り出した新シリーズShort Circuitsの初回配本。過激なキリスト教再評価である。ジジェクの本はほかに『ジジェクとの対話』(入荷済み)や『身体なき器官』(近日入荷)などが店頭に並ぶ。

Hegemony or Survival: America's Quest for Global Dominance
by Noam Chomsky
Henry Holt & Company. ISBN: 0262740265  

Middle East Illusions
by Noam Chomsky
Rowman & Littlefield. ISBN: 0742526992

上記はふたつともけっこう厚くて大きな本で、読み甲斐がある。今回のフェアの台風の目。チョムスキーは和書も洋書たくさん新刊が出ていてあきちゃったよと、読む前からうんざりしている人がいるかもしれないが、この二冊は無視してほしくない。

L'ombre de l'amour: Le concept de l'amour chez Heidegger
by Giorgio Agamben et Valeria Piazza
Rivages,mars 2003 ISBN: 2743611332 

バルトやドゥルーズ、デリダ、フーコーの新刊を差し置いて「フランス語書籍で最初に売れたのがこれです、ちょっとびっくり」とSさんに言わしめた本。若手編集者氏の売れ筋の読みがずばり的中。ヴァレリア・ピアッツァさんは一昨年にアガンベンが初来日した折に同行していた若手研究者。アガンベンの旧論文にピアッツァ女史の論文を添えて刊行された、フランス語版独自編集の小品だ。

これらのほかも、注目すべき書目ばかりなのだけれども、ぜひこの機会にお薦めしておきたいのが、柄谷行人氏の英米語版『トランスクリティーク』である。

Transcritique : On Kant and Marx
by Kojin Karatani (Author), Sabu Kohso (Translator)
MIT Press. ISBN: 0262112744

ご承知の通り、日本語版は株式会社批評空間の廃業により絶版になっているが、来年の三月末には大幅改訂版が岩波書店から刊行される。批評空間版『トランスクリティーク』は英米語訳されることを前提にした上で書かれたいわば初稿である。上記の英米語版はこの初稿版から発展したものだ。三月末に刊行される最新版はこの加筆された英米語版から出発している。つまり、批評空間版から英米語版、そして岩波書店版へというテクストの変遷があるわけで、とりわけ他言語に翻訳されることによってある部分非常に文意が明確になった英米語版は、黙過できない異稿であることは間違いない。

ちなみに岩波書店版は来年一月から隔月で刊行が開始される『定本・柄谷行人集』全五巻の第二回配本である。第一回配本は『隠喩としての建築』。これは1983年に講談社から刊行され、のちに同社の学術文庫に組み込まれた同名の評論集の新装再刊では「ない」。最新版だとか改訂版だという訳でもない。これは英米語オリジナル版として書き下ろされたものの、はじめて日本語版である。英米語版を日本語版に書き換えたのは著者本人であり、新たに長文の後記が付される。

全五巻はほかに『日本近代文学の起源』増補改訂版や、単行本未収録論文を大幅改稿して集めた二つの論文集『ネーションと美学』、『歴史と反復』である。全巻すべてが改稿されるため、単なる著作集とはわけが違う。そのせいだろうか、都内の大書店では公式チラシがたちまちなくなるという事態に陥っており、期待度の高さが伺える。

さて、岩波書店の宣伝が続いてしまうが、来月末に翻訳刊行されるデリダとハーバーマスの「共著」、『テロルの時代と哲学の使命』の原典がまもなくフェアの店頭に並ぶ。

Philosophy in a Time of Terror: Dialogues With Jurgen Habermas and Jacques Derrida
by Giovanna Borradori, Jurgen Habermas, Jacques Derrida
University of Chicago Press. ISBN: 022606664

この本について私は『インターコミュニケーション』誌46号でも一言書いたので、簡潔に済ませよう。共著をカギカッコで括ったのは、正確に言えばこの本はボラドーリ女史が彼ら二人に別個にインタビューしたものが一冊になっているからである。もちろん二人の近年の共闘があった上での同意によって一冊に収められているので、条件付で「共著」とも呼びうるだろう。

なおデリダは同月に『マルクスと息子たち』が同じく岩波書店から、続いて未来社から『コーラ』が出版される予定だ。昨年末から今年年頭にかけてのデリダの日本語訳ラッシュほどではないにしても、新刊が続く。新刊が続くといえば、フランスでの著名度に比べて日本語訳が『ドゥルーズ』(河出書房新社)一冊と寂しかったアラン・バディウも翻訳出版が続きそうだ。デリダの新刊と同様、来月の発売だが、河出書房新社から『倫理――悪の意識に関する試論』が長原豊、松本潤一郎ほか訳で刊行される予定であり、さらに藤原書店からは『哲学宣言』が黒田昭信、遠藤健太による訳で続刊予告されている。

河出書房新社についてはその他の来月新刊にも触れないわけにはいかない。ついに、ガタリ最後の著書『カオスモーズ』が出版されるのだ。宮林寛と小沢秋広の共訳。またジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』の待望(驚愕)の文庫化も見逃せない。第一部を収録する第一巻には大江健三郎が序文を寄せるとのこと。 http://www.kawade.co.jp/soon/index.htm

脇道に逸れてしまったが、洋書フェアの顛末については来月にも再度リポートすることにして、今年9月末に初来日したイギリスの哲学者アレクサンダー・ガルシア・デュットマンの再来日について一言書こう。彼は来月中旬東大駒場で連続講演を行う。演題はEthics and Aesthetics in Adornoで、アドルノの『ミニマ・モラリア』(法政大学出版局)が教材となる。

日時:2004年1月13日(火)‐16日(金) 午後4:30‐6:30
場所:東京大学駒場キャンパス14号館708号室

Session 1(13日・火):
“What does Adorno mean when he states that wrong life cannot be lived rightly? (aphorism no. 18)”

Session 2(14日・水):“The Aphorism as a Form of Thinking”

Session 3(15日・木):“The Address of the Work of Art”

Session 4(16日・金): 
“A Reading of Morality and Temporal Sequence (aphorism no. 49)”

デュットマンは、来年ズーアカンプ社より新版が刊行されるアドルノの『ミニマ・モラリア』に150頁近い長大な序文を寄せる。長大な序文と言えば、フッサールの『幾何学の起源』に対するデリダのそれ、デリダの『グラマトロジー
について』に対するスピヴァクのそれ、ビンスワンガーの『夢と実存』に対するフーコーのそれ、等々を思い浮かべるが、ズーアカンプにも十分認められた上で長大な序文が併載されるのだから、力作の具合が窺えようものだ。その序文の一端を、来月の来日講演で私たちは知ることになるだろう。

なお、初来日時のシュミット・シンポジウムには参加できなかった読者もいるだろうが、PR誌『未来』の今月号(12月号)で、デュットマンの講演録『決定と至高性』を読むことができる。

* * *

さて恒例だが最後に、私がオンライン書店bk1の「人文レジ前」コーナーで今月取り上げた人文書新刊を列記し、ベスト1を発表したい。今月はここ数ヶ月に増してびっくりするくらいの豊漁だったが、そのほとんどを取り上げることができなかったのが悔やまれる。なお30日は更新はなく、次回は年明け6日の予定。

『世界を変えた100冊の本』M・セイモア=スミス著/別宮貞徳ほか訳/共同通信社
『世界リスク社会論』U・ベック著/島村賢一訳/平凡社
『なぜ私たちは過去へ行けないのか』加地大介著/哲学書房
『貧困と不正を生む資本主義を潰せ』N・クライン著/松島聖子訳/はまの出版
『ドグマ人類学総説』P・ルジャンドル著/西谷修監訳/平凡社
『菊燈台』澁澤龍彦著/平凡社
『イタリア・ルネサンス事典』J・R・ヘイル著/中森義宗監訳/東信堂
『世界の妖精・妖怪事典』C・ローズ著/松村一男監訳/原書房
『カント全集(15)人間学』渋谷治美ほか訳/岩波書店
『ハイデッガー全集(3)カントと形而上学の問題』門脇卓爾ほか訳/創文社
『省察』ヘルダーリン著/武田竜弥訳/論創社

ベスト1は企画性では『菊燈台』。話題沸騰のシリーズ「ホラー・ドラコニア」の第二弾だが、内容、挿絵、造本装幀ともに非常によくコーディネートできている。これらのコーディネーションのバランスが悪い書籍がますます増えている昨今、編集者はせめてこれくらいのレベルの意識を持って本をつくらなきゃね、という風に後進の襟を正してくれる模範例である。いっぽう、内容的な再評価の意味ではカントの『人間学』がよかった。晩年のカントは巧みな話術で読み手を惹きつけながら、彼の哲学の精髄をわかりやすく伝えようと心を砕いている。紹介記事にも書いたが、カントを読むなら三批判書の前にこれを読んだ方がずっと入りやすい。

取り上げるべき書目が多いのにまるで果たせず、あんまりにも悔しいので、その中から一部を以下に列記しておきたい。見づらい羅列になるがお許しを。

バーナード・ショー『完全なるワーグナー主義者』新書館、K・ポパー『量子論と物理学の分裂』岩波書店、N・チョムスキー『生成文法の企て』岩波書店、鎌田東二『神道のスピリチュアリティ』作品社、米山リサ『暴力・戦争・リドレス』岩波書店、N・フレイザー『中断された正義』御茶の水書房、E・ホッファー『エリック・ホッファーの人間とは何か』河出書房新社、A・ヴァールブルク『ヴァールブルク著作集(5)デューラーの古代性とスキファノイア宮の国際的占星術』ありな書房、T・トドロフ『バンジャマン・コンスタン』法政大学出版局、J・ベールシュトルドほか編『十八世紀の恐怖』法政大学出版局、P・ブーレーズ『ブーレーズは語る』青土社、M・イグナティエフ『軽い帝国』風行社、N・ルーマン『社会の法(1・2)』法政大学出版局、G・リッツァほか『マクドナルド化と日本』ミネルヴァ書房、R・シュタイナー『魂のこよみ[新訳]』イザラ書房、松岡心平編『世阿弥を語れば』岩波書店、L・ハッチオン『アイロニーのエッジ』世界思想社、礫川全次編『男色の民俗学』批評社、松田行正『ZERRO』牛若丸、岡野八代『シティズンシップの政治学』現代書館、石野博信編『古代近畿と物流の考古学』学生社、日高敏隆『動物と人間の世界認識』筑摩書房、E・グリッサン『レザルド川』現代企画室、『ロラン・バルト著作集(10)新たな生のほうへ』みすず書房、『ディルタイ全集(2)精神科学序説』法政大学出版局、C・フォン・ヴェールホフ『自然の男性化/性の人工化』藤原書店、網野善彦『「忘れられた日本人」を読む』岩波書店、ベーコン『ニュー・アトランティス』岩波文庫、I・リーデル『クレーの天使』青土社、鵜飼哲『応答する力』青土社、G・H・ミード『プラグマティズムの展開』ミネルヴァ書房、井村君江『サロメ図像学』あんず堂、M・ウォルツァー『寛容について』みすず書房、五味文彦『書物の中世史』みすず書房、E・ホワイト『ジュネ伝(上・下)』河出書房新社、加賀美雅弘『病気の地域差を読む』古今書院、川畑直道『紙上のモダニズム』六耀社、A・ボグダーノフ『信仰と科学』未来社、岩田重則『墓の民俗学』吉川弘文館。

上記にない書目のうちには来月取り上げる予定のものがある。いずれにせよ、毎週3点ずつの紹介ペースではとうていすべての注目新刊は扱いきれない。以前やっていたようにせめて毎週5点は取り上げなければ。しかしここしばらくは点数を少なくする代わりに紹介記事の分量に重点を置いてきた事情があって、点数を多くするなら記事はごく簡潔なものに戻さないかぎり、扱うにも限界がある。それでも本心では、より多くの新刊に光を当てたいところだ。

一日一冊以上の注目書が実際にはあるのに、その大半は膨大な既刊書の堆積の中へすぐに消えていってしまう。図書館のように広いジュンク堂池袋店ですら、すべての書籍が陳列されているわけではない。単に規模だけが必要であるなら、池袋店の倍の4000坪は確保しなければならない。そのような途方もない書店はおそらく実現されまい。私はリアル書店のアウラをオンライン書店で表現できるとは思っていないが、オンライン書店は別のかたちで不可能性を追究しなければならないのだと考える。実現が望ましいその課題についてはまた別の機会に言及してみたい。[2003年12月25日]

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初出:[本]のメルマガ」第163号(20031226日配信)


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