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■ハート+ネグリの『〈帝国〉』の続編、その名は『マルチチュード』
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マイケル・ハートとアントニオ・ネグリの共著『帝国』の続編が今年の八月に、ハーヴァード大学出版ではなく、なんと、かの大手出版グループのペンギンから刊行されることとなり、オンライン書店のアマゾンで予約がすでに開始されている。タイトルは『マルチチュード:帝国の時代における戦争と民主主義』。
Multitude: War and Democracy in the Age of Empire
by Michael Hardt, Antonio Negri
Penguin. August 9, 2004.
Hardcover: 352 pages
ISBN: 1594200246
本書は「戦争」「マルチチュード」「民主主義」の三部に分かれる。自由主義社会のエゴイズムの肥大化した、冷酷無比な世界新秩序としての〈帝国〉。その暗黒面である戦争が、現代においては反抗者に対する永続的な警察活動として現れることがまず指摘される。そして、グローバリゼーションがもたらす様々な歪みのもとに生きる世界市民が、単に世界資本主義の矛盾による辛酸を舐めるだけの卑小な存在なのではなく、〈帝国〉の強大な包摂力を逆手に、今までになく強力で柔軟な結束の可能性を手にしていることを、希望をもって主張する。
〈帝国〉への新たな対抗的結束可能性を獲得しつつある多数多様な群集=マルチチュードは、未聞の民主主義のポテンシャルを担う主体であり、ハート+ネグリは、かつてマルクスが世界各国の大衆に団結を呼びかけたように、現代に生きるすべての人々に、反〈帝国〉的ネットワークへの自律的参加を促すのだ。
昨年ついに釈放されたアントニオ・ネグリは、今年(二〇〇四年)二月にローマの出版社マニフェストリブリから『レーニンをめぐる三十三講』を刊行している。これは、一九七七年にパドヴァのコミュニスト系出版集団であるCLEUPから上梓された『戦略の工場:レーニンをめぐる三十三講』の新版である。手元にこの一九七七年版がないため、異同を確認できないのだが、自らの七〇年代を振り返って書かれた序文(二〇〇三年九月、ローマにて、と記されている)はオンラインでも読むことができる(ただしイタリア語だが)。
"Trentatre lezioni su Lenin" 2004, manifestolibri, ISBN88-7285-337-0
"La fabbrica della strategia: 33 lezioni su Lenin" 1977,
CLEUP.
http://materialiresistenti.clarence.com/permalink/143598.html
ネグリはレーニンの思想に、階級分析、権力転覆の実践的理論、民衆運動の弁証法的主体としての党、永久革命、潜在力としてのコミュニズム、等をめぐる議論を見て取り、そこから現代の社会運動に活用できる理論的武器を掬い出す。偶像としての公式のレーニン像が東欧社会において崩落した今こそ、現代人はレーニンを別の仕方で読み直せるのかもしれない。
デューク大学で教鞭を執るマイケル・ハートの近況だが、本年一月にニューヨークの出版社ヴァーソから刊行されたアンソロジー集『運動の趨勢:もうひとつの世界は本当に実現可能か』で、ウォールデン・ベロー、ジョゼ・ボヴェ、ナオミ・クライン、マルコス副司令官、イマニュエル・ウォーラーステインらのテクストとともに彼の論考が収録されており、行動する哲学者としてますます知名度が増しているように見える。この名アンソロジーは、世界のオルタナティヴな対抗運動を実践的・理論的に主導する現代の思想家たちのテクストを集めたもので、アクティヴィスト必携との呼び声もある。
"A Movement of Movements: Is Another World Really Possible?"
edited by Tom Mertes, 2004, Verso Books, ISBN: 1859844685
なお『〈帝国〉』や近刊『マルチチュード』に通底する基本的研究として、マイケル・ハートは九九年春に、マルクスの『資本論』に関する読解ノートを草
しており、以下のウェブサイトで読むことができる。ハートのマルクス理解を知る上で参考になる覚書だ。
http://www.duke.edu/~hardt/Capital.html
以前に少し書いたように、『マルチチュード』の日本語版権は、某出版社が以文社を出し抜いて獲得した。仄聞したかぎりでは人文系の書籍では破格の前払い金を払っている。正直そこまでする意図が測りかねるが、原著もハーヴァード大学出版ではなくペンギンから刊行されるのだから、まあ何と言おうか、売れ筋だからぜひウチの出版社に引っ張りましょうよ、とかいう会話が出版社の社内で交わされたのだろうか。内容が内容だけに、著者には儲け(印税)を公表するくらいのおおらかさを要求したくなる。本の内容に文句を言っているのではない。本来はあまり思想的にシンパシーが深くないはずの出版社側の妙な「売れ筋」扱い(に見えるだけかもしれない)が腑に落ちないだけに、きちんとした議論の場が準備されることが今後望まれるだろう。
八月も中旬以降であれば、日本の洋書店や洋書売場には並ぶはずだ。日本でまず原書が何冊くらい売れるか。アマゾン・ジャパンではわずか税込2730円だ。この『マルチチュード』の刊行時期に合わせて若干の企みを私は考えている。複数いる共謀者のプライヴァシーへの配慮からまだ公表はできないが、そのうちオープンにできるだろうと思う。[二〇〇四年四月二十四日記す]
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初出:「[本]のメルマガ」第175号(2004年4月25日配信)
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